【日々のくらしの裏側で – vol.2】過去の経験から未来へ。あの公害を繰り返したくない。

都心から近く、海と山に囲まれた地域ということで移住者の多い三浦半島。

その三浦半島の一端である横須賀市久里浜に「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」の建設が計画されています。

この建設計画は、東京電力フュエル&パワー(株)と中部電力(株)が共同出資して設立した(株)JERAが、横須賀火力発電所内の発電設備を撤去し、新たに設備容量65万kWの石炭火力発電設備2基を建設するものです。

現在、環境影響評価法等に基づく環境アセスメントの手続きが進められていますが、長期計画停止していた既存設備の更新と位置づけられ、環境負荷の実測値との比較が行われない等の課題を抱えており、既存設備解体工事は住民への説明も不十分なまま既に進められています。

そのような中、2017年4月、この問題について考える市民団体、横須賀石炭火力を考える会が発足しました。この一年間、横須賀だけでなく逗子や三浦、鎌倉で横須賀石炭火力の問題についての学習会を開催してきた、同会代表の鈴木陸郎さんにお話を伺いました。

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(横須賀石炭火力を考える会、鈴木陸郎さん)

 

この横須賀の石炭火力発電所の建設計画はどのような経緯で知ったのでしょうか?

“発電所ができるらしいよという話を聞いたんです。それで、いろいろ調べたらやっぱりそうだったということでした。それまで石炭火力はあまり意識したことがなかったので、どんなものになるかってことをまず知ろうとして、経産省外郭団体の研究所の方に横須賀に来ていただいて、いろいろ話を伺ったのが最初でした。そこで、石炭火力に頼らなくとも電気は十分足りると、しかも節電とか、再生可能エネルギーで十分やっていけるという話を伺った。その時先生が強調されたのが印象的でした。というのも、節電というと「我慢」ということをよく言うでしょ。でも、そんなに我慢しなくとも節電は可能だということを話されて。だから、生活の水準を落とさずに節電と再生可能エネルギーで産業もやっていけるし、私たちの暮らしも十分エネルギーが足りるという話をされたんです。ふりかえって横須賀の計画のことを考えると、これは必要のない火力発電所を作る計画だということだと。その間に温暖化の問題があるし、大気汚染物質が出るということも同時に学んで、じゃぁ横須賀で何かしなきゃというのでみんなで相談して、それから半年ぐらいかかって、今の考える会(横須賀石炭火力を考える会)をみんなで立ち上げたと。こういうことです。”

 

具体的に横須賀発電所の計画はどのようなものか、教えていただきました。

“ここはもともと石油を燃料にした発電所があったんです。作られてから、40年50年以上経って施設が古くなって、長期の計画停止となり全く発電しなくなってからしばらく経っているんです。その古い発電所を解体して、新しく発電所を作るんですけれど、その燃料を今度は石炭に変え、石炭火力発電所として作ろうとしているわけです。

今、世界的に見ても、石炭火力というのは温暖化ガスの問題があって廃止していくという状況にも関わらず、石炭を燃料にしようとしているんですよ。しかも、65万キロワットの発電所を2基作る。2基合わせて130万キロワットになるわけですけれど、130万キロワットというのは大型の原子力発電所と同じぐらいの能力を持つ、そういう大きな発電所なんですね。電気が足りないかというとそうでない。十分電気が足りているのに、燃料を石炭にして、ここに発電所を作ろうとしているわけなんです。” 

 

電力が十分に足りている。それなのに、なぜ新しい発電所を、しかも、世界に環境対策に逆行するような石炭を燃料とする発電所がなぜ建てられるのか。その理由を尋ねると、次のような答えが。

なぜかというのはよく聞かれます。けれど、それはやっぱり、現時点で石炭が燃料として一番安いからなんですね。一番安い燃料で作れば、安い電気ができると。電力自由化の中で、事業者は競争にさらされているわけですから、競争に打ち勝つだめには、安い電気を作ると。こういう事情で石炭を選んでいると思うんですけど。果たして、石炭がいつまでも安い燃料かというともうそうでない。自然エネルギーの方がコストがずっと安くなっていくというのが世界的な流れになっていますので。必ずしも、今事業者が考えているように、石炭が安い電気を作る燃料ではない。これからそういう時代になってくる。別に発電することに反対しているわけではないの。ただ、環境的にも、経済的にも問題がある発電所を作るということを、問題と考えているわけです。”

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(現在解体作業中の横須賀火力発電所。振り返るとすぐ目の前にマンション、新築の戸建が経つ。)

アセスメントの制度が十分に整っていない時期に当初の発電所が建設されたからか、建設予定地のすぐまわりにはたくさんの住宅が。この横須賀計画について、近隣住民の反応はどうなのかというと、そもそも計画を知っている人がほとんどいなかったそうです。そればかりか、たとえ知っている人がいたとしても、次のような反応だったそう。

“たまたま知っている人がいても、高効率のいい、新しい技術の発電所が作られるのだから問題ない、という受け止めだったんです。ですけども、知らないという方が圧倒的に多かったという状況自体といいますか、これだけのものを作ろうというのに事業者は周りの住民に知らせないというのはどういうことなんだろう、ということを最初の頃はよく考えました。”

 

計画のことを知ったとしても、「そうなんだ」と終わってしまう人が多いのが、悲しくもこのご時世。無関心の多い中で、どうして会を立ち上げようと思ったのでしょうか?

“どうしてと言われても困ってしまうのだけれど、私達の年代からすれば、いわゆる公害問題を経験している。私自身は公害で健康を害したということはなかったですけど、そういう悲惨な状況を同じ世代が経験しているわけですよ。それで、公害問題が起こったときも、「公害対策にお金をかけたら産業が大変になっちゃうからほどほどに」という議論があって、それと非常によく似た論理で温暖化問題が言われているわけですよね。節電すると電気をいれなくなるだとか。非常に似た構造だと思ったんです。そうなると公害問題をそれなりに経験してきた立場からすればほっとけないという気持ち。このままの社会を残したら持続ができないというのがはっきりしてきているじゃないですか。それを私達の世代が作ってきたわけでしょ。それをそのまま残していいのかというのがやはり問われる。そういう気持ちがあったんですよね。だからできるときにできることをやらないと。やっぱり後悔するかなという思いで。”

 

公害問題をそれなりに経験してきた立場からすれば放っておけないという鈴木さん。放っておけないと思うほどの公害は、実際どのような経験だったのでしょうか。

“若いときに川崎に住んでいました。その時の川崎というと、もう公害の街と言われていたんですね。まだ完全に公害がなくなっているわけではないんですけども、やっぱり公害問題を克服したまちというか、今は若い人にすごい人気のあるまちになっていますよね。

川崎にいた頃は工場から出てくる煤塵がうちの中まで入ってきてね、朝出ていって、帰ってくると、テーブルの上がザラザラするというような、それぐらいひどい時代があったんです。

それからもう一つ、東京も昔は自動車の排ガスがひどいときがあったでしょ。幹線道路の沿線で喘息とか、公害病になる人が非常に多かった時期があった。その頃、私の甥なんですけど、東京の大学に来ているときに喘息を患って、公害認定患者になったんです。もう亡くなったんですけどね。当時、東京では暮らしていけないというので田舎に帰ったんですけど、その喘息がとうとう治らなくて、何べんも発作を起こして緊急に入院したり、それから喉を切開して人工呼吸をやったり。そういう非常に悲惨な状況で暮らさざるを得なかった。その甥はサッカーの好きな子で、とても身体の丈夫な甥っ子だったんですけどね。そういう公害病の恐ろしさというのは自分の身内にもいたということでね。本当に目に見えないですから、大気汚染物質というのは。目に見えないのに病を起こすというそういう経験もあって、そういう思いは他の人にしてほしくないというのはとても強く思っています。”

 

「放っておけない」という鈴木さんの想いから始まった横須賀石炭火力を考える会。会を立ち上げてからは何をされてきたのでしょうか?

“一番多いのは学習会。何回も重ねましたし、それから横須賀の会が立ち上がったときにちょうど千葉県の蘇我、袖ヶ浦の方でも同じような運動をしているということを気候ネットワークの方を通じて知って、同じ問題抱えているのなら、連絡会のようなものを作って、いろいろ情報交換すれば運動に役に立つのではないかということで、それから1ヶ月か2ヶ月くらい後に、東京湾の会(石炭火力を考える東京湾の会)立ち上がったわけです。そこで、一緒に環境省への申し入れをしたり、それぞれの事業者に直接申し入れをしたりしてきました。”

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(写真:三浦のセミナーで計画の概要を説明をする鈴木さん。)

 

活動していての感触について尋ねると、

“環境省の担当者の方たちは環境問題に熱心でね、温暖化の問題をこのまま放置してはだめだという思いが共通していて、お互いに頑張っていきましょうというようなやり取りをしたことはとても印象的でした。ただ、アセスの審査会を何度も傍聴したとき、その審査会の先生方が非常に頑張っていらっしゃるのはよくわかるんですけど、なかなか審査員の先生方と私達との間で情報交換ができていなくて。審査会で私たちの声をもう少し反映できたらなという思いは今でもあります。そういうつながり研究者とのつながりをもっと早くからつくることが出来ていれば、と。あと、事業者には私たちの力が及ばないなと常々感じますね。事業者の方はやっぱり事業ですから利益が上がるということを目指してやっているわけですから。けれども、それでも今は事業者への働きかけを強めなきゃいけないのかなという感じを持っています。”

 

横須賀の会の活動の働きかけもあり、近隣住民のこの問題に対する周知は高まったそうです。

 “事業者は近隣住民に説明する責任がもちろんあるから、環境アセスメントの書類(注1)を提出するたびに説明会を開くわけ。でも、環境アセスメントの方法書が提出されたときに説明会が実施されたんですけど、参加したのは30人くらい。2か所合わせて60人か70人くらいしかいなかったんです。そして、次に環境アセスメントの準備書が提出された。できるだけ多くの人に計画を知らせるというのは事業者の役割ですけれども、この時は私達も住民に呼びかけて。そうしたら全体で410名も集まって、会場が溢れて、第2会場、第3会場を準備しなくてはいけないような状況になりました。質問時間も1時間くらいしか用意していなかったのに、さらに延長1時間半というほどになりました。そういう状況を作ったというのは、それなりに関心がやっぱりあって多くの人が集まってきたと思います。“

 

これからどのようなことをやっていこうとしているのでしょうか?

“これからやらないといけないこと、たくさんあるんです。準備書が出されて、それで、環境大臣がそれの準備書に対する意見を出しているんです。これはとても厳しい意見です。いまでさえ、今運転している石炭火力発電所も止めなきゃいけないほどのCO2を出しているわけですね。減らさなきゃいけない状況の中で、新しく作るっていうのは、30年とか40年、CO2を出し続けるということになってしまうでしょ。世界的に見れば石炭火力はやめましょうという時代なのに、先進国がやめるときに日本がピークを迎えるというような、そういう状況ですから、やっぱりいろんな人にまだまだ訴え続けてですね、やらなきゃいけないことはまだいっぱいあると思っているんです。事業者に対してもやはり環境大臣があれだけ厳しい意見を出しているのに、事業者がそれに対する答えを出して、公表するという場面がないんですね。ですから、そういうこともこれから事業者に対して聞いていく必要があるかなというふうに考えています。”

 

最後に、この活動にかける想いを聞きました。

“横須賀というのは本当に温暖な気候で、とても住みやすい場所なんですね。そういう場所でありながら米軍の基地があって、その他にこういう石炭火力の発電所ができるなんていうことになると、非常にこう、環境の恵まれた町がいわば財産を失っていくみたいな、そういうことになる。ですけれども、やはりそうでなくて、自然豊かな町で、それを求めて都会からも多くの人が横須賀に移り住んでくれると。そういう時代になるというふうに思いますのでね、東京湾の側もいいところですし、相模湾の方も、そこなんかは本当に景観も優れているし、気候も本当にいいところですので、そういう町にずっとしていきたいというふうに思っています。

今はまだこの計画を知らない人も多いけれど、とにかく話を聞いてもらえれば、理解してもらえる話ではないかな。昨日の三浦での勉強会でも、「電気がたくさんあった方がいいんじゃないか」という質問があったけれど、あの方の気持ちからすれば、電気というのは余裕を持っていっぱい持っていれば、何かあったときにちゃんと電気が供給できるじゃないかと、だから発電所はいっぱいあったほうがいいと。そういう意味でおっしゃっていたのかなと思いました。やっぱりそういう人多いと思うんですよ。当然だと思います。だから不自由なく暮らしているわけなのでね。でも、そういうことは起こらない。ここに石炭火力をつくらなくとも、そういう問題は心配しなくともいいということも知らせたい。ここに新しく石炭火力発電所を作ることによって30年40年、温室効果ガスを出し続けるということになると、世界中で石炭火力がなくなってしまったときに、日本だけがそういうことをずっと抱えているということになったら、いろんな面で支障があると思うんですね。だから、世界の流れから見ても石炭火力をやめることは当然のことなので、理解してもらえると思っています。とにかく、反対運動のようにだけとられちゃうと、その入口でシャットアウトされちゃうんでね、だからそうでない、ポジティブな、例えば再生可能エネルギーをどんどん増やしましょうというメッセージと一緒に、石炭火力はそういう意味ではブレーキをかけるし、時代遅れになってしまうよという、そういう形で伝えていけば、どんどん受け入れてもらえるというふうに考えていますね。”

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(公園から建設予定地が一望できる。計画では、遠くに見える海を隠すように、発電所が建設される予定となっている。)

 

鈴木さんの描く横須賀の未来像。それは、鈴木さんだけでなく、横須賀の人々全てが描くものなのではないでしょうか。

その一方、建設予定地を視察した際に痛感したのは近隣住民の無関心。発電所のすぐ隣には、建設されてから日の浅そうなマンションや、新築の戸建てがありました。そのマンションの前の通りに立ってみると、途切れることなく響く解体工事の音。また、現在はまだ旧発電所の解体段階であるものの、石炭火力発電所が稼働した場合には、多くの排煙を浴びることになりそうです。そのような状況にも関わらず、建設予定地周辺には、建設計画に対する反対のバナー、のぼり等は全く見られないという風景。

 

横須賀石炭火力を考える会のfacebookでは、石炭火力発電所問題について積極的に情報発信しています。ぜひ、フォローしてみてください。

(高橋英恵)

 

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(注1)環境アセスメント(環境影響評価)とは、大規模な開発事業などを実施する際に、事業者が、あらかじめその事業が環境に与える影響を予測・評価し、その内容について、住民や関係自治体などの意見を聴くとともに、専門的立場からその内容を審査することにより、事業の実施において適正な環境配慮がなされるようにするための一連の手続きをさす。事業の開始に当たっては、配慮書、方法書、準備書、評価書の4段階をふむ必要がある。詳細はこちら

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