COP24カトヴィチェ会議 – 公平性の担保と今すぐの行動強化を!

12月2日、ポーランド・カトヴィチェにて国連気候変動枠組条約締約国会議(COP24)が開幕しました。この会合は14日まで続き、パリ協定の実施指針(ルールブック)の採択が目指されています。

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すでに世界の気温は産業革命前に比べ平均約1℃上昇しています。今年の日本では、記録的な猛暑や土砂災害などが発生し、それにより多数の犠牲者が出ています。世界各地でも異常気象が多発し、とくに備えの乏しい途上国の貧困層が大きな影響を受けています。10月に出された国連科学者機関のIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書によると、気候変動の影響はすでにとても深刻で、気温の上昇が1.5℃の時と、2℃の時では被害や影響に大きな差があることがわかりました。
しかし、各国の気候変動に関する国別目標(NDC)を積み上げても、2℃はおろか、3℃以上の気温上昇が予想されています。21世紀末までの気温上昇を1.5℃までに留めるよう努力するというパリ協定の目標とは程遠いのが現実です。1.5℃目標を達成可能とするには今後10年程の間に現在の国別行動計画の大幅な強化が必要とされ、もう時間の猶予はありません。

カトヴィチェ会議の主要論点

パリ協定の実施指針(ルールブック)

2015年に採択されたパリ協定に基づく、2020年からの実施にあたり必要な実施指針(ルールブック)の採択がCOP24にて求められています。
途上国は全ての要素が議論され、パッケージで実施指針が採択されることを求めていますが、先進国は2020年からの運用に直接関わる部分や緩和の部分を強調し、それ以外を先送りにしようとしています。
途上国は、適応や、資金や能力に欠ける途上国への支援(NDC実施に重要になる先進国による資金支援の事前情報通告など)を重要視していますが、支援問題を実施指針の議論と切り離したい先進国と対立しています。

1.5℃レポート

今年10月に、IPCCによる1.5℃目標に関する特別報告書が出されています。1.5℃目標をいかに行動に落とし込むか、どのようにCOP決定に反映されるのかが注目されています。1.5℃レポートの内容からも、今すぐの行動強化が必要であることがさらに緊急性を持って明らかになりました。とくに気候変動の被害を受ける途上国は1.5度目標を決定文書に反映させることを望んでいますが、先進国の中にはCOPの最終的な決定文での言及を避けようという動きがあります。

Pre-2020(2020年までの行動強化)

気候変動を抑制するためには、今すぐの行動が必要ですが、パリ協定の実際の実施は2021年からです。そのため先進国が8年前のCOP16で約束した2020年までの行動強化(Pre-2020)が特に途上国から求められていました。2020年より前の行動強化は会議の公式議題に入っていませんが、2020年前の行動強化に関する閣僚レベルのラウンドテーブルが2週目に予定されています。
京都議定書の第二約束期間の発効に関わる「ドーハ改定」の批准・発効や、途上国の国別行動に必要な先進国から途上国への資金支援などの強化が求められています。

タラノアダイアログ

パリ協定では、各国がおこなう気候変動への国別目標を定め、5年ごとに報告と目標の引き上げを行います。最初の報告が行われることになっている2023年に5年さきがけて、2018年に促進的対話が行われています。(COP23の議長国フィジーにより「タラノアダイアログ」という新たな名称があたえられています)促進的対話を通じ、各国がどれだけ目標を引き上げることができるかが鍵となります。
2018年に国連に提出されている先進国の報告によると、1990年から2016年までの排出削減は、土地利用転換による排出を除くと13パーセント。2010年から2016年までの先進国(アネックスI)による排出量に限ってみれば、4.4パーセントでした(出典)。
日本はすでに自主的な2020年までの削減目標を達成しています。タラノアダイアログでは「どのように目標を達成するのか?」、「現在の進捗は?」、「ゴールは?」という三つの問いが与えられていますが、そもそもなぜこのような状況になっているのか?という問いかけはなされていません。現在の気候変動は先進国や一部の富裕層が多くの温室効果ガスを排出し発展してきた結果です。先進国は歴史的責任を直視し、早急な2020年及び2030年までの行動強化と目標強化が求められます。

資金

これまで気候変動を引き起こしてきた先進国には途上国に対し資金・技術支援をする義務があります。途上国の気候変動対策実施のためには、資金支援が不可欠です。COP16において先進国は2020年までに年間1000億ドルの追加的資金支援をすることを約束していますが、オックスファムがまとめたレポートによると、2015年~2016年の間に拠出された額は年間160億ドル〜210億ドルにとどまります。一方、資金常設委員会からUNFCCCになされた公式の報告では、2016年、先進国による二国間の資金援助を積み上げると380億ドルの拠出が、そしてOECDは2017年に567億ドルが拠出されたと計算しています。
COP2週目には閣僚級の資金に関するラウンドテーブルが予定されており、資金支援についても注目されます。

先般、途上国がNDCの一部を実施するだけでも、3兆5千億米ドルの資金が必要というレポートも発表されています。先進国は途上国支援における民間資金の動員を強調しますが、求められている気候資金は、適応活動や政府の実施能力向上などに必要なもので、営利目的の民間資金ではカバーできないところが多く、先の見通しを立てやすく市場動向に左右されない公的資金であり、既存の開発支援に対し追加的であることが重要です。また、すでに気候変動の被害が深刻な途上国においては、緩和に加え適応や被害への支援が重要です。GCF(緑気候基金)を通じて拠出された気候資金は、半分が緩和、半分が適応に振り分けられることを目指していますが、2017年にFoE USが発表した調査によれば、適応に振り分けられた資金は27パーセントでした。GCFの原資も尽きており、2018年3月の理事会で資金追加のプロセスがようやく合意されましたが、気候変動の影響が深刻化する中、先進国によるさらなる資金支援は急務です。

損失と被害

途上国側が重要視する論点の一つは、損失と被害です。気候変動による損失と被害はすでに途上国で多く現れていますが、COPの中で議論する場所が十分に設けられていません。アメリカは、賠償の議論つながる損失と被害への言及を強硬に拒否しており、他の先進国もそれにならっている状況です。COP19で設立された損失と被害のためのワルシャワ国際メカニズム(WIM)で議論が行われていますが、乏しい予算や人材で十分に活用できていないのが現状です。損失と被害に関するCOP内での議論や支援強化が求められています。

市民社会

COP会場では毎回、世界各国から訪れる政府交渉団に対して、またメディアを通じて、世界にメッセージを発信するために市民社会が様々な働きかけやアクションを行なっています。ポーランドは石炭大国であるということもあり、温室効果ガスをもっとも排出する石炭からの脱却求めるアクションが行われることが予測されています。しかし、ポーランド政府はCOP開催にあたり、警察に対しCOP参加者の個人情報にアクセスできる権限を与えたり、事前に許可されないアクションは禁止する時限法を制定し、市民社会の動きを抑制しようとしています。

FoE Japanは会議場内での議論を注視し、気候変動の被害を最も受ける人々の声をアクションや提言など様々な形で伝えていきます。

(小野寺ゆうり・深草亜悠美)

【日々のくらしの裏側で – vol.1】横須賀石炭火力発電所建設計画への地元高校生の目線

2018年11月4日、三浦市。現在、三浦市の隣市である横須賀市で計画されている石炭火力発電所に関するセミナーが開催されました。実はこの横須賀の石炭火力発電所建設計画、リプレイスメント(建て替え)ということもあり、通常以上の速さで計画が進行しています。

セミナーのワークショップでファシリテーターを務めたのは、逗子在住の高校生、山下くん。小学校の頃から環境問題に興味があり、社会と理科を合わせて考えてみたいということもあって登録していた環境団体のメールマガジンが、横須賀の石炭火力計画を知るきっかけだったそうです。この状況を見つめる地元高校生を追いました。

 

横須賀の石炭火力計画を知ったきっかけは、グリーンピースさんのメールマガジンでした。僕は原発問題とか、川の汚染、大気の汚染のことが気になっていたので、このメールマガジンに登録していたんですけど、石炭火力が日本で今建てられていると、それが僕の町、横須賀にもあるんですよという内容がメールマガジンで入ってきたんです。”

20181203_1セミナーでファシリテーターを務めた逗子在住の高校生、山下くん。

 

そのメールマガジンをきっかけに動くようになったのかと思いきや、やはり高校生。当初は学校の活動が忙しかったそう。

その当時は生徒会入っていて忙しくて、自分の興味あることとかあまりできていなかったんです。選挙だ、文化祭だと準備に追われていて…。結局生徒会の任期が終わったタイミングからでした。引退して時間ができて、じゃぁ自分の興味のあることをどんどん知っていこう、これから大学を選んでいくためにも、自分が本当に興味のあるものはなんだろう?ということを知りたくなったんです。それでいろいろ調べたり、ボランティア活動の掲示板を見たりするようになって。掲示板のイベントも、気になったものは見に行きました。

その中の一つに、横須賀セミナーという、この石炭火力発電所計画のイベントが8月にあって、そこに参加したんです。そのセミナーでは、今こういう計画がある、経済影響はどうだ、といった話だったんですけど、実際に影響を受けるのは横須賀の人だけではなくて逗子の人鎌倉の人葉山の人にも影響があって、しかも横須賀市には税金としてお金が落ちるけれども、逗子市や葉山市には何もお金が降りてこない、ということを知ったんです。そもそも、こんな話、逗子や三浦の人も全部含めて周辺自治体の人はみんな知らないぞと。僕は逗子に住んでいて、この会に、たまたま僕のほかにもう一人逗子からの参加者がいて、その人と一緒に、セミナーのあと、「逗子の人みんな知らないよ」という話を鈴木さん(横須賀石炭火力を考える会)にしにいったんです。そのあと、どうやったらもっとみんなにこの計画を知ってもらえるかと話し合いになって。”

 

その話し合いの結果、逗子でもセミナーを開こうと?

逗子の人にまず考えてもらいたい。自分の地元ですから。僕は生まれも葉山なのでやっぱり、逗子・葉山の人に考えてもらいたい。「あの時声を上げていれば」とならないように、自分たちが影響を受ける前にみんなで考える時間を作りたかったんです。そこで、横須賀セミナーに一緒に参加した方と、逗子でセミナーをやりましょうってなったんです。”

 

逗子セミナーは、どのように準備を進めていったのですか?

もう一人の方には会場の予約とか、僕は高校生の団体や、生徒会に入っていたので神奈川県生徒会会議に声をかけてみたり、駅前でチラシを配ったり、広報活動をしていました。あとは、気候ネットワークの方々、考える会の鈴木さんと、みなさんに集まっていただいてなりたったという感じです。”

 

逗子組で企画した逗子セミナーですが、山下くんの広報の成果もあり、高校生の参加者も多かったとのこと。今回の三浦セミナーも、逗子セミナーに参加した、山下くんの仲間の言葉がきっかけだったそうです。

彼はたまに三浦の農家へインターンに行くんですけど、「三浦も横須賀と接しているけれど、三浦はもっと知らない。なんなら三浦は農業をやっているからその人達にも影響があるんじゃないか」という話になったんです。それで、これは三浦でもセミナーをやらなきゃいけない、と。そうしたら別の参加者から、「今回は逗子だったから逗子の人は来ることができたけれど、三浦や鎌倉や葉山にはまだ来れていない人がいるかもしれない」という提案も頂いて。そこで、三浦半島の4つの市でセミナーを開いていこうという話になって、今日、三浦でセミナーを開くに至ったんです。”

 

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三浦セミナー事前会議風景

 

セミナーでのワークショップのファシリテーターを務めた山下くん。彼が参加者に投げかけた問いは「セミナーを受けて、横須賀の石炭火力計画の何が一番問題だと思いますか」というもの。山下くんにとって、何が一番問題なのかを伺うと、次の返答が。

僕は大気汚染ですね。やっぱり直に影響が来るじゃないですか。地球温暖化は確かに大変だと思うし、世界規模で努力をしなきゃいけない。でもやっぱり、空気の汚れって一番に直近で影響が来ますよね。石炭火力発電所ができて、それが動き始めたら有害物質は飛んでくるし。地球温暖化は暖まるのに時間がかかって、最終的には最悪な状態になるのかもしれなくても、逗子葉山のきれいな海とか空気を汚すようなことは嫌だし、良くないかなと。やっぱり海とか歩いたりするのが好きなので。

あと、公害とか、昔あったじゃないですか。それから日本は規制を設けたり、環境アセスメント法とかも整備したりして、やっとグリーンな地球を作るために頑張ろうという方向に向いてきているのに、それに逆行するようなことはしちゃいけないと、僕は思うんです。”

 

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白板の前に立つ山下くん

 

これからやっていきたいことを聞いてみました。

もっと、この横須賀の石炭火力建設計画問題を知ってもらう機会を作りたい。今、横須賀、逗子、三浦と、3つの場所で開催できて、あとは鎌倉、葉山それぞれに知らせなきゃいけない。でも、汚染が一番ひどくなる地域って戸塚あたりなんです。もちろん三浦や逗子も近いからひどいけれど、煙突が高いからなのか、風によって一番ひどくなるのってちょっと離れたところなんですよ。平塚の人とか、茅ヶ崎の人とかは、横須賀の問題をなぜここで言っているんだと思うかもしれないけれど、「あなた達が一番やばいんだよ」というのを何より本当に伝えたいです。物理的な距離と、自分たちの心の距離が、人間の心の距離感が合わない。

だから、まず地元で反対の機運を高めないといけないと思う。地元が反対していないのに外の人が反対と言うのは少し違うと思うので、まずは横須賀市内、でちょっと次に三浦半島全域、さらには神奈川県の影響があるところは全部、っていう順で、この石炭火力問題のことを伝えられたらなと思います。いろんなところでこの問題を広める活動ができたらみんなの意識が変わってくると思う。何より、この横須賀の石炭火力発電所の問題の何が一番ネックかって言ったら、みんなが知らない間に進んじゃっているっていうことが一番いけないと思うんですよ。気づいたら自分たちの健康に悪いものができていたっていうのはそれは困るだろうと。企業側が本当はもっと知らせるべきだと思うんですけど、企業が知らせる努力をしないんだったら、知っている人がしなきゃいけない。まずはみんなが知らなきゃいけないんです。”

 

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三浦セミナーの会場からうっすらと見える、建て壊し中の古い発電所。この跡地に、新たな石炭火力発電所の建設が予定されている。

 

初めは横須賀だけであったセミナーをどんどん三浦半島に拡散していくことに貢献し、伝えたいことや今後のビジョンもはっきり持つ彼ですが、こんな意外なコメントも。

時々、自分がやっていることが正しいのかわからなくなるんです。たとえば、最初に言われたことなんですけど、「電気足りないから発電所作るんじゃないの?おまえがそれ止めちゃって停電になったらどうするの?」というようなことを言われたんです。その時は知識がなくて、「いやちょっと待てよ、確かに電気足りていないのかもしれない。どうしよう?」となって。このときは知識がある方から「日本の電力は余っている」という情報を聞いて、「あ、電気は足りているんだ」と一件落着したんですけど、他にも「経済を回すにはいくら環境に悪くても発電所を作らなきゃいけないんじゃないか」と言われた時とか、「そうかもしれない」と思う時がたまにあって、そういうときはちょっと怖く感じるというか、僕らは石炭火力発電所に対する反対意見を言っているけれど、その反対意見に反対されたときの根拠が十分になかったりすると、自分のやっている活動が正しいのか不安になることはありますよね。友達に話しても、聞いてくれないことはあるし。”

 

全てが順風満帆と感じるわけではないようです。大人から反対されるのももちろんですが、友達に話しても聞いてくれないとなると、なおさら不安を感じるはず。それでも、同世代のみんなに伝えたいことがあるかを尋ねたところ、山下くんは、少し間をおいてこんなメッセージをくれました。

もちろん僕も一人でやっているわけではないので、仲間をどんどんほしい。まずは知っておいてもらいたい。これも僕が石炭に関わり始めて日が浅いせいかもしれないですけれど、自分の地元、生まれ育ったところが、逗子葉山の海と空気が汚れることは、僕にとってうわーって思う状況なんです。それを同じように感じでくれたのなら、気候ネットワークさんとか横須賀の会のツイートをリツイートとかしてくれたら、広がっていくわけじゃないですか。そういう細かいところからの参加でいいから、持続可能な社会を作っていくのに協力していけたら、いける人が多くなったらいいというのは思いますね。”

 

ジレンマを抱えつつも、同じ世代の仲間へ強く発せられた強いメッセージ。

自分の地元が、もしくはお気に入りの場所の空気が汚されてしまったら。

この記事を最後まで読んでくださったみなさん、まずは目を閉じて想像してみてください。

 

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(高橋英恵)