パリ協定実施指針採択に向けて 〜主要論点〜

パリ協定実施の核である「国別貢献(各国が独自に定める気候変動対策に関する目標/NDC)」の定義に関しては、貢献は緩和だけでなく適応や途上国支援、発生した被害への対策などを含め包括的であるべきとする途上国と、緩和のみで適応や途上国支援は一切外したい米国主導の先進国グループとの間で交渉開始当初から大きく隔たったままの状況です。

・透明性枠組み
各国の進捗報告のシステム(「透明性枠組み」)の構築においては、途上国側は、先進国からの資金・技術移転なしには実施できない部分が多いため、報告すべき内容に先進国による案件レベルの支援に関する情報を含めるよう求めています。一方、米国主導の先進国側は、支援を受ける国が、受けた支援の報告も含め、先進国と同様の報告を求める主張が併記された形になっています。また先進国は発生している気候変動による被害の情報は含まれないと主張し、含まれるべきと主張する途上国と対立しています。

・グローバルストックテーク
パリ協定の下で2023年から5年ごとに行われる進捗状況の全体評価(グローバルストックテイク)の手続きの議論では、1.5/2℃目標に対する進捗評価だけでなく、適応の進捗や資金技術支援、発生被害の評価もすべきとする途上国に対し、先進国の間では、緩和以外に支援評価などを含めることに対して強い抵抗があります。また米国などの先進国はここでも発生する被害の評価を含めることに強く反対しています。

・途上国支援
現在、各国が発表しているNDCを積み上げると、将来の気温上昇は3℃以上になると予想されていますが、この数字はあくまでも途上国が十分自国の貢献を果たせたという仮定に基づいており、追加的な資金・技術の移転が先進国からなされなければ、気温は更に上昇します。そのため、途上国は、先進国による途上国支援の報告や、パリ協定下での次の途上国支援目標額の設置、適応資金の継続など、途上国への支援についての内容が先進国のNDCに含まれ、また透明性枠組みの下での報告や全体評価にきちんと含まれることを求めているわけですが、米国や一部の先進国は強硬な反対を続けています。

更には、COP16(2010年、メキシコ・カンクン)の決定で設置された途上国支援の要である緑気候基金(Green Climate Fund, GCF)は、初期資金の3/4がすでに拠出されており、このままだと来年で資金が底をつく状況です。先進国、特に米国は拠出を約束した額の一部しか拠出しておらず、7月の緑気候基金の理事会で先進国理事が追加拠出の手続き開始に合意しなかったことが途上国の危機感を煽っています。

・市場メカニズム
日本や欧州先進国及び一部途上国はパリ協定に盛り込まれた国際市場メカニズムのCOP24での国際ルール合意に強い意欲を見せています。化石燃料や農業に関わる国際資本は、途上国でのバイオマスやバイオ燃料を使った削減事業のクレジットでビジネスを継続できることから、交渉に深く関わっており、今回の会合でCOP決定文書案に整理されため市場メカニズムに関する交渉文書が作られる可能性があります。国際市場メカニズムが設けられることはパリ協定ですでに合意されているとはいえ、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)と桁違いの大量のオフセットが取引されることになり、大口排出国の国内対策が更に遅れることになるため、これに懸念を持つ国々はオフセットではなく純削減とする原則や、取引できる量を制限する「補完性」と呼ばれる国際ルールを求めています。

・利益相反
これは大資本の利権がパリ協定の実施方針を弱める一例でもあります。先進国の大資本は、エネルギー政策に決定的影響を与えています。国連気候変動交渉において、多くの化石燃料企業が関与しており、気候正義を求めるFoEや国際的な市民のムーブメントは、気候変動による破滅的状況を避けるためにはエネルギーシステムの抜本的改革が必要であると訴えています。中でも今日の気候危機を生み出している、強い政治力を持つ企業資本が大きな影響力を持つ現在の状況から、市民が決定権を取り戻すことを呼びかけています(例えば、気候変動交渉には利益相反指針がなく、化石燃料企業も多く交渉に関与しているため、気候正義を求める市民グループは、利益相反指針(COI)を設けるよう提言している)。

(文:小野寺ゆうり、編:深草亜悠美)

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