汚染水の公聴会大もめ~海洋放出に反対意見次々

経済産業省は、東電福島第一原発における多核種除去装置(いわゆるALPS)処理水の処分に関する説明・公聴会を8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催しました。
経産省の資料によれば、タンクにたまっているトリチウムの量は1,000兆ベクレル。
トリチウム以外の放射性物質はほとんど除去されていること、トリチウムは弱い放射線しか出さず、自然界にも存在し、生体濃縮はせず、世界中の原発から排出されているとし、海中放出を含む4案を提案しています。
しかし、放出されたトリチウムの一部は、光合成により有機結合型トリチウムに変化すること、有機結合型トリチウムは生物の体内に長くとどまり生体濃縮をおこすこと、細胞やDNAに取り込まれること、放射線による細胞やDNAの損傷のみならず、崩壊による損傷もおこすことなどが指摘されています。
さらに、今回、ALPS処理水の中に、基準を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106が残存していたことが明らかになりました。ヨウ素129に至っては、FoE Japanの確認では、2017年4月~2018年7月の間に143サンプル中65サンプルで告示濃度超を起こしていたことがわかりました。
しかし、説明・公聴会の資料では、基準を超えていない2014年9月20-28日のデータがつかわれていました。
3会場での「説明・公聴会」で意見をのべた人は、富岡1名、郡山1名で海中放出を容認する意見があったほかは、ほとんどが海中放出など環境への放出に反対しました。とりわけ、県漁連の野崎会長などは漁業への影響を訴えました。

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多くの人たちはトリチウムの危険性を指摘した上で、陸上でタンクで長期保管すべきと述べました。

私は東京会場の「説明・公聴会」に参加しました。経産省や委員が公述人の「意見をききおく」だけの公聴会だったはずが、それですまされず、公述人や傍聴者が、経産省の事務局や委員を問い詰める場面もあり、「大もめ」の公聴会となりました。

トリチウム水を海に流すな トリチウム水公聴会

公述人・傍聴者たちが問うたのは、主には以下のようなものでした。

  • なぜ、代替案にタンクでの保管案が入っていないのか
  • トリチウムの危険性についてきちんと検討されていないのはおかしいではないか。
  • なぜ、他核種の残存について資料には書かれておらず、古いデータが使われたのか
  • 現在の海洋放出の計画では、1,000兆ベクレルを52~88カ月かけて放出することになっている。これは年間の排出量が、福島第一原発が動いていたときの保安規定の年間排出の上限(22兆ベクレル)を上回る量となるのだが、よいのか。

>原子力市民委員会による大型タンクでの陸上保管案については、こちらをご覧ください。終了後、山本委員長は、タンク保管案も代替案に加えると発言したと報道されています。私が述べた主な意見は以下のとおりです。

  • 大量のトリチウムを希釈して環境中に放出することに反対。
  • 総量規制を行うべき。また、すでに海中に放射性物質が放出されている。累積的な影響についても考慮すべき。
  • トリチウム、とりわけ有機結合型のトリチウムのリスクについて、資料に掲載されていないのはなぜか。
  • ヨウ素129など他核種が慢性的に残留していたのにもかかわらず、古いデータが使われていたのはなぜか。委員たちは、このことを知らされていたのか。
  • トリチウムのみが残留しているとされていた。他核種については検討されていない。説明・公聴会の前提がくずれた。小委員会での検討をやりなおすべき。

なお、意見陳述時間は5分と限られていたので、全部は発言しきれませんでしたが、事前に提出した意見書を以下に掲載します。(満田夏花)


多核種除去装置(ALPS)処理水の処分に関する意見

<要点>

  • 既設・増設ALPS処理水でヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は2017年4月~2018年7月まで60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。
  • 経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある
  • トリチウムのリスクに関して十分検討されていない
  • 放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである
  • 公聴会のやり方がおかしい。

1.既設・増設ALPSでヨウ素129、ストロンチウム90の基準超えが明らかに。ヨウ素129は60回以上基準超え。公聴会の前提は崩れた。 ヨウ素129、ストロンチウム90の告示濃度限度(基準)超えがあきらかになった。経済産業省のタスクフォースや多核種除去設備等処理水の小委員会では、「ALPS処理水はトリチウム以外は除去されている」という東電の説明の通りの前提で検討が行われており、他の核種については検討が行われていない。 しかし、今回問題になったのはヨウ素129については増設ALPSで2017年4月~2018年7月まで告示濃度(9Bq/Lを超えるものが60回以上計測されており、出口はA~C。最高は2017年9月18日の62.2Bq/Lであった。慢性的に基準超えしている状況である。180829_2ストロンチウム90に関しては、増設ALPSでは2017年11月30日に141Bq/Lと告示濃度30Bq/L)を超えていた(出口C)。

ヨウ素129は、半減期1,570万年。特に海藻に濃縮・蓄積される。体内にとりこまれるとほぼすべて甲状腺に集まり、とりわけ胎児や乳幼児への影響が懸念される。「薄めて出せばよい」とは思えない。 いずれにしても説明・公聴会の前提はくずれた。経済産業省は、改めて検討をやりなおすべきである。

2.経済産業省が示している処分方法以外にも有力な代替案がある 

経済産業省の5つの案以外にも有力な代替案がある。

研究者・技術者・NGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、現在トリチウムのリスクに関してさまざまな説がある中で海洋放出を強行するのではなく、恒久的なタンクの中に保管することを提案している。国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に100年以上備蓄する案であり、減衰により、トリチウムの量が現在の1000分の1程度に減少する。大型タンクでの貯留は、すでに実績のある既存の手法であること、現在の1,000トン容量のタンクに比して面積効率がはるかに高いという利点がある。十分現実的な提案なのではないか。タンクの設置場所については、福島第一原発の敷地内にこだわらず、その周辺またはその他の東電所有地も考えられる。このような地上における保管案が十分に検討されているとは思えない。

3.トリチウムのリスクに関して十分検討されていない

経済産業省は「トリチウムは安全である」という前提で、放出に向けたステップを踏もうとしているように思われる。たとえ、経済産業省が言うようにトリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であったとしても、1,000兆Bqのトリチウムの放出は、膨大な放射性物質の放出である。

光合成により有機結合型トリチウムが生じれば、リスクはさらに高まる。決して過小評価すべきではない。作業員や公衆についての疫学調査は、影響をトリチウムに特化することができないため、なかなか有用な結果がでていないようである。しかし、トリチウムが人体に取り込まれた場合、その一部が細胞核の中にまで入り込んで、DNAを構成する水素と置き換わる可能性があること、その場合、エネルギーが低く飛ぶ距離が短いベータ線により遺伝子を損傷する危険性があると指摘する専門家もいる。また、有機結合型トリチウムは、生物濃縮されるのに加え、生体構成分子として体内に蓄積されるため、長期間影響を及ぼしうるという指摘もある。これらのトリチウムのリスクについて、経済産業省におけるトリチウム・タスクフォースで徹底的に議論すべきであろう。トリチウムが、世界中で運転中の原発から放出され続けているという事実は、安全性の証明とはならない。なお、トリチウムの摂取基準は世界的には国によって大きな幅があり、経済産業省が引用しているWHOは10,000Bq/Lであるが、アメリカでは740Bq/L、EUでは100Bq/Lである。このことは、トリチウムのリスクに関して国際的にも定説が得られていないことの表れではないか。

4.放射性物質は、環境中に放出するのではなく、安全保管を行って減衰を待つという原則を守るべきである

経済産業省は、トリチウムの人体への影響がセシウムの700分の1であるとするが、そうであったとしても、1,000兆ベクレルにも及ぶトリチウムの放出のリスクを否定することはできない。さらに他核種が残留していることもわかった。トリチウムを環境中に放出するのではなく、前述の原子力市民委員会の提案などにより、安全保管を行って減衰を待つべきである。

5.公聴会のやり方がおかしい

前述のように、トリチウム以外は除去されていたという公聴会の前提が崩れた。それ以外にも以下の点で公聴会のやり方がおかしい。

①代替案を検討する段階から、多くの意見をきくべき 環境中に放出することが前提となっている。代替案の検討の段階から広く意見をきくべきである。

②資料の作成段階から異なる意見を有する第三者からのインプットを得るべき 資料作成の段階で、経済産業省の「環境放出ありき」の結論に導くのではなく、第三者のインプットをえるか、または環境放出以外の意見をもつ団体等の資料も並列すべきである。

③開催場所が限定的すぎるなぜ、富岡、郡山、東京の3箇所なのかがわからない。福島県でも多くの漁業者がいるいわきで開催しなかったのはなぜか。漁業が影響を受ける太平洋側の主要都市で開催すべきではないか。

④異なる立場の専門家等からの重点的な意見聴取を トリチウムの放出のリスクに警鐘を鳴らしている専門家や漁業・流通関係者、過去の公害経験などに知見を有する人たち等からの重点的な意見聴取を行うべきである。

⑤自由な質疑および意見陳述の時間を ④に加え、参加者が説明に対して質問および意見陳述ができる時間帯を設けるべきである。

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