韓国ムン・ジェイン大統領のもとでの脱原発の道のり~新古里5・6号機の公論化プロセスで問われたものは?~

IMG_0857韓国環境運動連合(KFEM、FoE韓国)の事務所を訪問。ムン・ジェイン大統領のもとでの脱原発政策、特に新古里5・6号機の公論化プロセスについてお話しをうかがった。KFEMは公害被害者救済運動からはじまった韓国を代表する環境団体であり、各地に52か所の地域事務所をもつ。お話ししてくれたのは、メディアに脱原発の論客としてよく登場するというヤンイ・ウォニョンさん(エネルギー部門長)とアン・ジェフンさん(脱原発チーム長)。国際担当のキム・ヘリンさんも同席し、脱原発や反戦をテーマに活動されているキン・ポンニョさんが通訳をしてくださった。(写真上:KFEMの事務所の入っている建物の外観。)

ムン・ジェイン大統領の脱原発公約の内容

韓国には稼働中の原発が24基、建設中のものが4基、計画中のものが6基あり、全発電量の30%を原発が占める。こんな原発大国韓国において、ムン・ジェイン大統領は選挙公約として、脱原発を進めるため、①建設中の原発の建設中断、②計画中の原発の白紙撤回、③設計寿命の延長はしない、④脱原発ロードマップを作成する--などの公約を掲げた。これに従えば、現在建設中の新古里5・6号機は建設中断となるはずであった。

国民の圧倒的な支持で当選したムン・ジェイン大統領は、2017年6月19日、寿命を迎えた古里1号機の停止式典で、脱原発宣言を行ったが、建設中の新古里5・6号機については、「公論化プロセスにより、結論を出す」と公約よりも後退したものであった。

建設30%の新古里5・6号機が公論化プロセスへ

新古里5・6号機は、すでに建設が30%進んでおり、建設を中止するにはもっとも議論をよぶものであった。事実、地元の住民も、建設作業で雇用されていたり、補償金が支払われたりしており、今から中止することに関して抵抗が強かった。地元の造船所も不況であったため、建設中断は、雇用の問題と絡め認識されてしまったという。

IMG_0862「ムン・ジェイン大統領が、住民への補償問題を先に解決してから、公論化プロセスに進んでいたら、話は違っていたかもしれません」とアン・ジェフンさん。

公論化プロセスが発表されたとき、脱原発運動をしている人たちの中でも意見が分かれた。「建設中の原発の建設中断という約束を守るべき」という意見もあったが、「市民たちが参加するプロセスを否定することは難しい」とほとんどの団体は公論化プロセスを尊重するという態度をとった。高い支持率をほこるムン・ジェイン大統領に反対することは分裂を生む、という考えもあった。

建設再開が過半数、しかし原発縮小も過半数

公論化プロセスは、今年7月から3カ月行われた。日本でも2012月夏にエネルギーをめぐる「国民的議論」で行われた討論型世論調査と類似の形式をとった。公論化委員会が形成され、建設の賛否の双方の意見を資料集に記述。2万人の一次世論調査が行われ、回答者の中から、地域・性別・年齢などを考慮されて471人の市民参加団が選出された。(しかし、あとからの発表では、建設賛成派の方が多かったという。)この人たちが、事前学習を行い、総合討論会に参加し、最終アンケート調査に回答した。

結果は、建設中止が40.5%、建設再開が59.5%。(女性では建設中止が52.7%、再開が47.3%、男性では中止が33.7%、再開が66.3%)。

一方、原発を縮小すべきという意見は53.2%を占め、拡大すべき9.7%、維持すべき35.5%を大きく上回った。

建設が再開されることにより、古里5・6号機が運転を開始し廃炉になるまで、最長で2080年代までかかることになるという。

合意された「原発をやめていく」というという方向性

「あまりに長すぎます」とアン・ジェフンさん。

「これで脱原発と言えるのか…。公論化プロセスでは、原発の安全性や事故が起こった時の住民被害よりも、仕事がなくなる、とか、電力需給の問題に焦点があたってしまいました。住民にとっては直接的な雇用の問題と原発建設の問題を切り離すことができなかったのは残念です」

「原発に利害をもつ勢力の力がつよく、マスコミへの影響も強かったのが現実でした」とKFEMのエネルギー部門長のヤンイ・ウォニョンさん。

「原発をやめていくという方向性については多くの人たちが合意したものの、急激な変化については不安があったのでしょう。エネルギー供給を現在数パーセントにすぎない再生可能エネルギーで代替していくことも“現実的でない”と思われてしまった感があります。」

30km圏内に380万人~安全性は論点にならなかったのか?

実は、韓国の原発は人口密集地の近くに立地する。原発30km内の人口は世界1位。なかでも古里原発は30km圏内の人口が380万人にのぼる。釜山、ウルサン、キョンジュなど原発が集中する東南地域には、およそ60の活断層があるという指摘もある。こうした危険性は、公論化プロセスに影響を与えなかったのだろうか?

「もちろん、大きな論点でした。しかし、北朝鮮の核ミサイルや戦争の脅威に比べると、小さく感じられてしまったのかもしれません。原発事故が現実に起こるという実感が薄いのかもしれません」とヤンイ・ウォニョンさん。

「地震が起こるたびに、世論はダイナミックに変化します。キョンジュでの地震のあとには、原発反対が70~80%にまで跳ね上がりました。今は建設再開が強い状況です。

私たちとしては、これからは、原発の危険性に関する問題を提起するだけでなく、原発をやめても十分に電力はまかなえること、そうした代替案への希望を提起していくことが必要とされています」

一方で、ムン・ジェイン大統領は、「原発輸出については継続する」とも発言している。韓国の原発企業は、UAEでの原発事業の受注に加え、英国やサウジアラビアなどへの原発輸出を模索している。「当然反対です。国内での脱原発を目指すのに、原発輸出を継続するのは矛盾しています」とヤンイ・ウォニョンさん。東芝の失敗は、原発ビジネスのリスクを認識させなかったのか?という筆者の問いに対して、アン・ジェフンさんは、「むしろ、東芝が競争力を失ったことで、自分たちが競争力をもつ、と言っている」と苦笑した。

脱原発をいかに進めるか、廃炉をいかに早めるか、再生可能エネルギーをどのように促進していくか、日本の原子力規制委員会にあたる原子力安全委員会をどのように機能させるか、原発輸出に関する議論をどう進めるのか…。悩みはつきないが、それでも脱原発に舵をきったムン・ジェイン大統領の政策を、しっかりと支え、公約を守らせ、後戻りさせないという決意が感じられるお話しだった。

(満田夏花)

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  • ヤンイ・ウォニョンさん(KFEMエネルギー部門長)

IMG_0890新古里原発5・6号機の公論化の議論を通じて、原発を減らすべきだというのが大多数の総意であることは確認できた。

しかし、建設中である原発を続けようというのは、現実的な電力供給に関して懸念があったせいだと思う。私たちは原発の危険性に関して提起を行うのみならず、原発を減らしても十分に電力の需給バランスをとることが可能だという希望と対案を積極的に提起していくことが大事だと考えている。

  • アン・ジェフンさん(KFEM 脱原発チーム長)

Image-1ムンジェイン政府が脱原発政策を推進してエネルギー転換のきっかけをつくったことは画期的だ。

しかし、脱原発が実現するのは(このままでは)あまりにも遠い先であるので、心配であることも事実だ。

脱原発へ向かうスピードを速めて、24基の原発をどれほど早く閉鎖できるかが、われわれに問われている。たとえば、再生可能エネルギーを増やしたり、エネルギー効率を高めたり、省エネを実現したりして、脱原発を早期に実現できることを示していく必要がある。

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